引き続き奈良&南大阪でブドウを栽培し醸造をされている木谷ワインさんの特集でインタビュー(後半) です。
最終となる今回はワイナリー設立に向けてのチャレンジや今後の展望などをうかがいました☆彡
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目次
- - §4 - チャレンジ -
- ▼4-1:見習うべきは "気候条件が同じ" 近隣のワイナリー
- ▼4-2:県ざかい(奈良⇔大阪)特有の悩み - 生産地は?
- ▼4-3:樽 / 熟成への憧れ - 委託醸造は "置き場" に苦慮
- ▼4-4:農家さんから醸造の依頼を受けるも "自前のワイナリー" が無いと厳しい現実
- ▼4-5:奈良県にワイナリーを設立する社会的な意義 - 委託醸造を受ければ農家さんを支援できる
- ▼4-6:ワイナリー設立は「地価の高さ」と「まとまった広さの土地の確保」がネック
- ▼4-7:斜面にこだわるのは盆地が多いから
- ▼4-8:年間約2500本 - 約10種類を生産
- ▼4-9: コロナ禍は "VRで畑中継" など新分野に挑戦する機会に
- - §5 - 将来への展望 -
- - あとがき -
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- §4 - チャレンジ -
▼4-1:見習うべきは "気候条件が同じ" 近隣のワイナリー
筆者 : お近くのワイナリーとの交流はありますか?
木谷さん : さっきの話にも出ましたが、特にカタシモワイナリーの社長には大変お世話になっています。関西のワイン業界全体を盛り上げようとして下さっていると感じています。
仲村わいん工房の仲村現二さんは栽培も醸造もストイック。造られているワインも非常に質が高いです。現二さんにはときどき日々の疑問をまとめて質問させてもらったりしていますね。
委託醸造先の國津果實酒醸造所の中子さんは海外での経験もご豊富です。天然酵母を学ぶキッカケになりました。
河内ワインさんは営業力といいますか仕組みづくりが凄い!!
ヒトミワイナリーの山田さんは僕と同じ年なんですけど醸造がお上手ですよ。
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筆者 : 周りにベテランが多そうですね。
木谷さん : 近くでワインを新しくやろうという若い方が少ないので自とそうなります。
他の地域だったら北海道のドメーヌユイさんですかね。醸造所が完成したようで少し前に視察にうかがいました。
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他にも日本全国行ってみたい産地は山ほどあるのですが、ここ奈良とは気候条件が違います。
だから寒い地域である山梨や長野や北海道のノウハウが奈良で役に立つか?といったら疑問ですよね。
だったら近くの大阪など同じような環境で美味しいモノを作ってる方に聞いた方が良い。
筆者 : なるほど。再現性が高いわけですね~。
▼4-2:県ざかい(奈良⇔大阪)特有の悩み - 生産地は?
ところで名称としては奈良ワイン or 木谷ワインどっちが正式ですか?
木谷さん : 木谷ワインです。現在のウチのような形態で奈良ワインと名乗ってしまうと一部の栽培しているブドウ畑や醸造場所が県内でない場合がありますから。
特にワイン通の方であればそういった厳密なルールを大切にされるといいますか。。。
筆者 : 確かに定義に厳しそう。。。
木谷さん : まぁ、本当に「奈良ワイン」と書けるものが出来たら、商品名にはシッカリとして出したいきたいですけどね~。
▼4-3:樽 / 熟成への憧れ - 委託醸造は "置き場" に苦慮
筆者 : 現在は委託醸造という形態ですが、どんな感じですか?
木谷さん : 場所や設備をお借りしてるという立場上、タンクを置かせてもらっての長期熟成は難しいとかですかね。
場所を占拠してしまうと委託先にとってもロスなので「早く瓶詰めして、早く引き払って欲しい」というのは当然あるでしょうし。
実はシャンパンに近いワインをデラウェアで作りたいと考えています。しかもオリごと何年も寝かせておきたい。早くそれを実現させたいし樽も色々と試してみたいです。
▼4-4:農家さんから醸造の依頼を受けるも "自前のワイナリー" が無いと厳しい現実
筆者 : 契約農家さんはおられますか?
木谷さん : いいえ。ですが、農家さんがワイン用につくっているブドウを購入したり醸造の委託を受けたりというケースはありますよ。
でも、そうなってくるとこちらも委託(醸造)でやっているわけですから収益性を確保するのが難しいです。その辺りも早く醸造所が欲しい理由の1つですね。
▼4-5:奈良県にワイナリーを設立する社会的な意義 - 委託醸造を受ければ農家さんを支援できる
筆者 : 奈良県でブドウ栽培をするってどんな感じですか?
木谷さん : 県内の農業に関しては高齢で辞められる方が多いです。ワイン用に切り替えて畑を守ったり。替わりに僕が畑の面倒を見たりだとか。
だから、できるだけ早く委託醸造も受けられるワイナリーを奈良県内に設けて、農家さんが楽になっていけるような仕組みを作りたい!
筆者 : 10R(トアール)さんみたいな感じですか?
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木谷さん : ですかね。任せていただくにしても知識・技術は全て出しますし続いて県内に第2、第3のワイナリーができれば!とも。
▼4-6:ワイナリー設立は「地価の高さ」と「まとまった広さの土地の確保」がネック
筆者 : ビジネスプランが奈良県の知事賞も取られてますよね?
木谷さん : そういうこともあってか、ウチのワインは奈良県からの贈答品として使われるケースも多いですよ。
役所の方は親切にして下さっているのですが、ワイナリーの設立にあたってはまず場所が見つからない事には動けないといった状態でして。。。
筆者 : 畑が8つもあるとどこに建てるか悩みませんか?
木谷さん : 中でも天理(奈良)の畑は大きいのでこの辺り、もしくは自分が住んでいる香芝辺りってところでしょうか。
ちなみに、ここ天理(奈良)の垣根の畑の土地だけでも購入すれば相当なお値段になります。奈良は地価が非常に高いんですよ。土地が詰まっていて市街地と近いからでしょう。
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しかも北海道や長野などと違ってまとまった広さの土地が少ない。そこがネックですね。
筆者 : 色んな記事で5年の計画と拝見しました。
木谷さん : コロナ禍の影響で計画通りではありませんが、待っていても仕方がないので出資の交渉などを進めていきたいところです。
筆者 : 会員(≒サポーター)の募集もされてましたね?
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木谷さん : 今年(2020年)の5月末に一旦終了したのですが、来年辺りにまた予定しています。
何しろ不動産(=土地)を確保してから上物を建てるってのと、融資にも補助金を投入するカラみもあって先に土地だけでも購入しておかないとなかなか。
最初は少ない設備でも徐々に増やしていければってところですが、とにかくワイナリー自体のスタートを早くしたい! 来年はイケるかと思っていたのですが現状では厳しいですね~。
ワイナリーをつくろうってのは、かなり思い切らないといけケないのかもしれません。
▼4-7:斜面にこだわるのは盆地が多いから
筆者 : ところで斜面に対するこだわりがあるのですか? ホームページなどを拝見しているとよく出てくるワードだったので。
木谷さん : たまたま斜面の畑にご縁があったというのもあるのですが、水捌けや根の伸び方など平坦なところと比べると断然良いですね。
基本的に奈良は盆地ですから斜面が盆地の縁(ふち)にしかない=適地が少ない と言えるのかもしれません。
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▼4-8:年間約2500本 - 約10種類を生産
筆者 : 世界のトレンドは意識されますか?
木谷さん : さっきも話に出ましたがオフフレーバーを利用して深みを出すようなワインが気になっています。やり方も何が正しいのか手探りですが色々と試してみたいですね。
筆者 : コンクールに出されたりは?
木谷さん : いえ、全然出していません。興味はあるのですが、出品するのに "まとまった量" が必要なので。
筆者 : ...とすると年間の生産量ってどれくらいなのですか?
木谷さん : 去年、今年とも約2500本で約10種類くらいですかね。同じ畑でも収穫日で分けているワインもあります。
平均すると1種類につき250本になりますが、この数だとコンクールに出したくても出せないのです。
量を確保するために色んなところのブドウを混ぜて美味しいものを造るという方法もありますが、その場所や畑の個性を大切にしたいので。。。
実は今「ワイン用の畑に変えたい」って農家さんの話が出てきています。そちら等で期待したような品質のブドウがいっぱい入ってきたら、コンクールにチャレンジするようなワインを造る可能性もあるかもしれません。
▼4-9: コロナ禍は "VRで畑中継" など新分野に挑戦する機会に
筆者 : コロナ禍はどうですか?
木谷さん : イベントが出来ないのは凄く厳しいですね。
以前、カーブドッチワイナリーの掛川(かけがわ)さんにメーカーズランチ / ディナーを一緒に組んでいただきました。
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昼夜50~60人のお客様を2回転するって内容で非常にご盛況いただいたのですが、もう当面は自粛ですね。
やはり顔を知ってもらって、想いを知ってもらって、飲んでいただく...ってのが凄く大事だと思っていて、やっと成果が出始めたかなぁと思っていた矢先でした。
ですが泣き言ばかりも言ってられないので、新しい施策としてオンライン飲み会やVRで畑の中継なんかをしてみようと考えています。
まだ成長段階だったので売上のダメージは少なかったものの前を向いてやっていきたいですね!
- §5 - 将来への展望 -
▼5-1:あの有名人も飲んだイチオシワイン : ブリコラージュ- N
筆者 : ところでレヴィ・ストロースがお好きなのですか? ワインの名前にもなっている「ブリコラージュ」は「役に立つか分からないけど、拾ったものを組み合わせて作る」って意味だそうで。
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木谷さん : その考え方がとても好きで、「設計図があって、それ通りに作る」ってのとは逆に「有り合わせでつくる」という概念です。
でも、ブリコラージュは今年(2020)は出しません。定番メニューというよりかは、たまたま去年はそういった造り方をしたといいますか。
昨日、実はブリコラージュのN(=奈良県産)を東京に持って行ってとある有名人の方に飲んでいただきました。いちおう「美味しい」って言って下さったのですが、その場でってところです。
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筆者 : 凄い! バズるかもしれませんね~。
木谷さん : どうでしょう。味としては少し酢酸を出してる系です。かすかに。
▼5-2:ブドウの樹もビジネスもじっくりと良いものを
筆者 : 樹勢に関しては「急成長させるんじゃなくって、ゆっくりな方が質の高いブドウが...」と書かれてましたが?
木谷さん : それはあると思っています。質を追求しないと面白くない。
「たくさん作る畑もあったら良いのに」と言われて「確かにそうだな~」と思うこともあります。でも、その分は売らないといけませんし「大量に造りましたよ!」ってワインを売る気になれるのか?っていうのもあります。
できれば質が良いものを自信を持って売っていきたい。
▼5-3: 課題は安定感
筆者 : 今後の展望はありますか?
木谷さん : 難しい質問ですね~。
でも、ワインは年々より良くなっていくと思います。醸造の腕も上がっていくでしょうし、品種の個性もつかめてくるでしょうから毎年改善していきたい。それは間違いないかなぁと。
現在地も理想とする高みも分からないですが安定させていきたいですね。
なんせ経験値が少ないので、これまで乾燥酵母だったらスムーズにいってたのが天然酵母に変えたことで急にイレギュラーが!...って事や、そのまま置いてて「これ、発酵が終わるのは2年後くらいかな~?」ってタンクもありますし...(笑)
たまに自然派の作り手で1年とか2年待つワインもあるようですが「これ、そのパターンなのかな?」とか分からない事が多過ぎて。。。
キレイにつくる方法は教科書的になっているとは思うんですけども自然派のつくり方って人から聞いたりしますが、かなりアバウト。
本にもなっていない事が多いのでみなさん手探りですけどね~。今の時代において結局は詳しい人に聞かないとなかなか分からないという状況に僕は感じています。
もしかしたら10Rでブルースさんに学ぶと良いのかな?とも思いますが。
筆者 : 凄い世界ですね。
木谷さん : これといった自信を持てる時はやってくるのだろうか?って感じです。色んな要素があり過ぎて。。。何事もきっとそうでしょうけど。
筆者 : 答えの無いカオスに飛び込むって感じでしょうか。本日は長時間誠に有難うございました~。
木谷さん : ごめんなさい。取りとめの無い話で...(笑)
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- あとがき -
当記事の執筆にあたっては木谷さんの率直なお人柄やワイン造りへの熱い姿勢が伝わるよう心掛けました。
インタビューを通じて様々な問題や課題を知った後、店でしみじみと吞んだ山野辺Blanc 2019は味わい深いものに。
以上